お金の統一は難しい
「家康、江戸を建てる」の3話は家康の小判鋳造に関する話です
今回はそのバックボーンとなる安土桃山~江戸時代のお金の話です
日本全国を安定的に統一するうえで誰もが行いたいのが、「お金」の統一です
ですが、これがとても難しい
今の日本国内では1000円札は誰が何と言おうと1000円の価値があります
でもこれは安定した信用に足る「日本国」という統一政権がそう言っているので、
あんな紙きれが1000円なのです
「国や政治家なんか信用できないよ!」と言ったところで、せいぜい与野党が変わるだけで今のところ国家転覆するなどとは考えないからです
結果から言うと江戸時代を通じても、ここまで安定したシステムは構築できませんでした
でも家康はそれなりに前向きにやろうとしていました
それが「家康、江戸を建てる」3話「金貨を延べる」に描かれています
家康の名のもとに小判を作り、全国に流通させるという狙いです
関ヶ原後に作られた「慶長小判」は日本初の計量貨幣としての小判でした
秤量貨幣と計量貨幣
あまり馴染みのない言葉がでてきたので少し説明すると
まず貨幣には秤量貨幣と計量貨幣があります
秤量貨幣は重さがそのまま価値になるということです
「金銀財宝が単純にたくさんあるほうがいい」というわかりやすい理屈です
まあでも貨幣は貨幣ですから、形だけはなんとなく一律になっており、文字も刻んであります
でも取引の際、いちいち天秤や分銅を出してきて量らなければならないので面倒です
計量貨幣は前者に対して、一気に高度なシステムで
その枚数によって価値が決まります
貨幣の信用を裏付けるより強力な責任者がいなければならず、
国内が足並みを揃えなければなりません
それに加えて、大きさや純度も統一、偽造を防ぐための高度な細工も必要です
当然、専門の技術者が必要となり、信長、秀吉政権のもとでは
京の後藤家が大判の鋳造を独占しました
(この辺の後藤家内部のゴタゴタが小説の3話でスリリングに描かれます)
計量貨幣は数を数えるだけでいいので取引はスムーズです
ちなみに少額の銭は、計量貨幣として古くからある程度出回ってました
ただし中世の日本では律令制の崩壊とともに技術が廃れていたため、
外国から輸入などして対応しなければなりませんでした
江戸時代のお金
江戸時代に流通したお金は、銭、金、銀、各藩内限定の藩札です
これを聞くだけでもうややこしそうです
このうち金貨と銀貨は大名や商人の大口取引がおもな用途でしたから
一般庶民にはあまり出回りませんでした
金貨が使われるたのは東日本
これを家康は計量貨幣としたのです
では、銀は?
銀が使われたのは西日本ですが、
これは1601年幕府による「慶長丁銀」「慶長豆板銀」が作られたとはいえ、昔ながらの秤量通貨でした
煩雑なので統一したいと考えるのは普通ですが、そう簡単にはいきません
結局江戸時代が終わるまで「東の金使い、西の銀使い」は変わりませんでした
西はなぜ銀なのか
それは西では古くから大陸との貿易が盛んだったことに要因があります
明・清の時代には銀鍵という馬蹄型の銀貨を使い、東アジア中で貿易の決済に銀を使用しました
そのため当時の主な輸入品である生糸の輸入に銀が必要だったのです
西では銀山が多く、東は金山が多いというのもありますが
主にこのような理由で、
江戸幕府ですら銀による西日本の商人間のシステムを根底から変えるということはできなかったのです(そもそも変えようとしていたのかどうか…)
西日本で使われる銀貨はナマコ型をした「丁銀」と、細かいのは「豆板銀」(小粒銀・小玉銀)がありました
丁銀のほうは一定量を紙に包んで(包銀)使い、実際その場で計量していたのは豆板銀だけでした
西と東でこのようなことになっているので、両替商というものが必要になってきます
それに加えて銭に関しては各藩がライセンス生産していて、幕府がその生産量をコントロールできていませんでした
そのため、絶えず貨幣の相場が乱高下する世の中だったのです
結果的に江戸時代人の経済感覚は研ぎ澄まされていったでしょうから良かった面もあったのかも…
現代の日本人は私も含めてこういう話は全く苦手になってしまいました
後藤庄三郎
小説では3話の主人公であり、江戸幕府の御金改役(ごきんあらためやく)として通貨行政を担った
後藤庄三郎光次ですが、
通貨の鋳造や検査以外にもおおいに活躍しているので少し見てみましょう
まず関ケ原の二年前、1598年に軍用金の調達を命じられ、見事その任を果たします
大坂冬の陣では、本多正純とともに、大阪方の織田有楽斎と大野治長と交渉、講和にこぎつけます
大坂落城後は城内の金銀の接収を任されます
朱印船貿易では、商船を出す許可をとるための窓口業務も任されていました
やっぱりほとんど金がらみのことばかりです
よほど優秀な経済官僚だったのでしょう
参考文献
「家康、江戸を建てる」門井慶喜(祥伝社)
「家康の家臣団」山下昌也(学研M文庫)
「江戸の家計簿」磯田道史監修(宝島社)
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