時代小説書評

時代小説書評【蚤とり侍】

『蚤とり侍』小松重男


昨年映画化した作品ですが、実は30年以上も前の短編集です
しかも収録作品の中で一番古いものは作者のデビュー作で40年以上前
この映画化に際して出版された、2017年版の巻末解説を監督の鶴橋康夫氏が担当していますが、映画化は鶴橋氏の提案だそうで
曰く「”置いておいて腐る企画”は多いが、これは腐らなかった」ということです
本屋でなんとなく手に取っただけだったんですが、それほど色あせない名作だったとは知りませんでした

内容は気軽に読める6編の短編集ですが、
誤解を恐れず言うと、下ネタ満載のエンターテイメント大衆小説
ですかね
とにかく出てくる人間が極端な奴らばかり
極端に忠義が厚い、極端に恐妻家、極端にくそまじめ、極端に邪悪…
時代小説なんですけど、扱ってるテーマが普通じゃないというか、視点が違うんですよね

全6編の中で特に気に入ったのは「鰈(かれい)の縁側」、「代金百枚」

「鰈(かれい)の縁側」は将軍の食べる鰈の骨を取る役目を仰せつかった幕臣の話で
万が一将軍の喉に魚の骨が刺さったら切腹させられるだろうということで
ずっとストレスとプレッシャーを感じて生きてるという、
それだけでも今の我々から見れば「えぇ~…」という感じなんですけど
そのオチがまた斜め上を行ったりするのであなどれない

「代金百枚」は長屋に住む貧乏浪人が子供たちに手習いを教えるという
ここまではありがちな設定なんですけど、
この人が最初見栄を張って授業料はいらないと言ってしまったため
後からメチャクチャ後悔しても武士のプライドと生来のマジメさのせいで授業料をくれとは言い出せず、
住人に見られないように長屋のゴミ捨て場をコソコソとあさるくらい底なしの貧乏に苦しむという、やっぱり「えぇ~…」という感じの話です

藤沢周平、池波正太郎の小説などとは一見立ち位置が違うイロモノのように見えますが、
今の時代からすれば信じられない不条理に、それでも負けずになんとか生きてる
昔の人間の哀愁が漂っています
だからこそ人や時代の暗部をのぞき込む怖いもの見たさのように、これからどうなるのか続きが気になるので読み進めてしまうのです


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