時代小説書評_初ものがたり

時代小説書評【初ものがたり】

『初ものがたり』宮部みゆき


「本所深川ふしぎ草紙」に続いて宮部みゆき作品を読んでみました
今回は「本所深川ふしぎ草紙」で狂言回しとして登場していた
「回向院の茂七親分」が主人公を張っており、よりスタンダードな江戸の捜査ものです

一話完結の短編形式ですが、
各話通して登場する、謎のいなり寿司屋台の親父についての謎などがあり、
それが少しづつわかっていく上手い仕組みになっています

この短編集のテーマとなっている「初もの」
江戸っ子は旬の食べ物を食べることに今以上に関心があって、
初ガツオなんかにやたら高い値段がつくのは有名ですが、
まあそういうガツガツしたのに限らず、
要するに旬の食べものやそれに伴う季節がテーマになっているということですね
回向院の茂七はこの作中でいなり寿司屋台の親父と知り合い、
その屋台に度々足を運ぶのですが、
その親父が出す料理がいちいち美味そうで、酒が飲みたくなること請け合い
僕個人としては稲荷ずしが食いたくなったので、
スーパーで2回ほど稲荷ずしを買ったぐらいです
ミステリー小説なので人殺しややるせない話などもありますが、
こういった江戸の粋な風俗を感じることができる作品ですね
なのでさっき「スタンダード」という言葉を使いましたが、
「時代小説を読むならとりあえずこれを読め」ぐらいにスタンダードな時代小説かもしれません
オススメです

いなり寿司

今この本を買うならPHP文庫から出ている「〈完本〉初ものがたり」を買ったほうがいいです
これには理由があって、
この短編シリーズの連載が1994年に「小説歴史街道」という雑誌でスタートしたのですが
廃刊になったため、一旦途中で終わってしまったそうです
そこまでの話を収録した無印の「初ものがたり」が、PHP文庫や、のちに新潮文庫で発売
そして後に追加の一話を加えた「愛蔵版初ものがたり」というのが出て、
そこからさらに二話加えた「〈完本〉初ものがたり」が出て、それが最新で文字通り完全版です
〈完本〉に収録されている最後の話が「オール読物」2003年に発表されたものなので、
この〈完本〉文庫版はそれから10年経って2013年に刊行されたわけだから
宮部みゆきファンは随分長い間待ったことでしょう…
そんないきさつも知らずに全部読める人は幸運かもしれません

ただ本の表紙イラストとしてはスティーブン・キング作品の表紙絵などでおなじみの
藤田新策氏のイラストが拝める無印の新潮文庫版が好きだったりします