彼方のアストラ

漫画書評【彼方のアストラ】老若男女が読むべき傑作SF漫画

『彼方のアストラ』篠原健太(集英社)

単行本全五巻(平成28年~平成30年)


20年に一度出るか出ないかというぐらいの傑作漫画に出会ってしまいました…

それが篠原健太先生の『彼方のアストラ』

実は今年の7月にアニメ化も控えておりまして、恐らく今後ブームになって
「ガルパンはいいぞ」ならぬ、「アストラはいいぞ」おじさんが増えると思うので今のうちにチェックしておきましょう
もう連載は終了しており、単行本は全5巻です


満を持してのアニメ化

最近の漫画のアニメ化というのは、
連載して人気が出ているうちにアニメ化して、アニメが終わった後はブームが去ってひっそり連載終了というパターンが多いですが、
この作品は単行本5巻分でキッチリ終了した後、アニメ化が決定しています

→『彼方のアストラ』アニメ公式サイト

最近は『うしおととら』、『どろろ』、『幽遊白書』、『ジョジョの奇妙な冒険』(これは区切りをつけながら続いてますが)のように、
終了しても長期的に安定した人気がある作品が数十年の時を超えてアニメ化(またはリメイクして再アニメ化)というものは多くなってきました
しかしこれは1年半前に終了した、本来なら忘れられてもおかしくない作品です
全く内容や事情を知らない人がこの話を聞いたら、なぜ?と思うでしょう

その答えはやはり、口コミによる影響が大きかったようです
SNSの時代ですから、面白い作品は口コミで広がります
ネットのいい部分のひとつです

徐々に人気が出て、「この漫画がすごい!2019」オトコ編第3位
を獲得しさらに知名度は上がりました

なのでここまで聞けば面白いのは間違いないわけですが、
面白いだけなら珍しくもありません
この漫画には単純な面白さ以上の衝撃を受けたので、
その点について語っていきたいと思います

(ネタバレなしでいきます)


『彼方のアストラ』はSFです

SF……いま特に人気があるというジャンルではありません
SFといえば「マニアック」「難しい」
…みたいなイメージを抱く人も多いんじゃないかと思います

馴染みがあっても『機動戦士ガンダム』『新世紀エヴァンゲリオン』
…でもこれは世間的に見ればロボットアニメにカテゴライズされがちです
SFアニメとしてはいまだ国内最高峰のものですが、ちょっとこの話では除外して…

なんとなく60年代~70年代の「ドSF」みたいなので勝負するのは
今の日本では鳴りを潜めているんじゃないでしょうか
その点アメリカのほうがSFを楽しむ土壌があるように感じます
(アマゾンプライムで最近見たのでは『インターステラー』『オブリビオン』など…)

だから『彼方のアストラ』読んだとき嬉しかったのは
とてもスケールの大きいSFをマジメにやっているということでした
ロボットや怪獣や美少女に付随するSF要素ではなくて、
SF自体が主役だというのが気に入りました

しかもバリバリ少年誌の絵柄なのに骨太なSFをやってしまう
この間口の広さです
(細かいところを見ればツッコミどころも多いんでしょうけど)

ここでSFについて少し考えてみますと
SFも結局、「現在実現不可能な技術とか、架空の惑星なんかが出てくるから結局のところファンタジーでしょ」
と言い切ってしまうことは可能ですが、

よくあるファンタジー作品が
作者のほうで独自の世界観をあらかじめ作って、その世界のルールの上での法則を
作り出す(あまり知識もいらないし簡単)のに対して、

やはりSFというからには、今ある現実の延長線上で科学考証や歴史などを加味して物語を考えるので、
作者の知識が試され、ハードルが高いです
同時に読者にもある程度の知識や読解力が要ります

しかしそれでもSFを考えるべきなのは、
ファンタジーでも、現実と重なる部分があったほうが説得力がありますし人の心を打ちます
そこから派生して得られる知識は現実の問題を考えるヒントにもなるかもしれません
そして単純に未来にはこういうことが起こるかもしれない…と考えるのは楽しいのです


キャラ人気でもいける

それでも人間、疲れた日常を送っていると
読む漫画もエロ・グロ・ギャグみたな何も考えずに読めるような話を求めてしまうんですけど
その辺の要素はやはりエンターテイメントだから必要ですね
『彼方のアストラ』はそれすらもカバーしている恐るべき作品です(グロはありません;)

主人公たちは研修旅行みたいな感じで別の惑星へキャンプに行くんですが、
そこでとんでもないトラブルに見舞われ、
はるか遠くの宇宙に放り出されるという最悪の展開を迎え、
なんだかんだでほとんど知らない者どうし、共同生活を送ることになります

これだけ聞くともう
ギスギスした展開から人が次々死んでバッドエンドまっしぐらと思いがちですが
確かに問題は多いですが、わりとドタバタしたギャグも交えながら頑張ってやっていくみたいな話です
暗くショッキングな展開でとりあえず読者の興味を惹いてみましたみたいな
安易なことはやりません
そこがなかなか珍しくて好きです

出てくるキャラクターはどれも魅力的で
宇宙船で共同生活をするひとりひとりの人物について
生い立ちや、性格までとても丁寧に描かれます

この辺はとても現代的なキャラクタービジネスにのっとっていて…
要するに人気が出そうなキャラが揃ってるということです
しかも凄いのが、女性人気も男性人気も全部カバーしようと思ってるんじゃないかと思うぐらいバランスが取れてる
全員美少女やイケメンなのは珍しくないんですけど、
嫌味がないキャラクターで、個性もバラバラなので気になりません
男女比も均等です

これが例えば、イケメンばっかとか、美少女ばっかだとかだと、
不自然で意図的なものを感じちゃいますし、
イケメン一人+美少女多数というハーレムものは受け付けない人もいるでしょう

あとは
登場人物はみんなピッチリとした、
身体の形がわかる宇宙服を着てるんですが、
みんなスタイルがいいです
もっと言うとエロい
そこも魅力のひとつです
僕みたいなハラが出てきた人間には厳しい世界です


ネタバレ厳重注意

「彼方のアストラ」のもう一つの重要な要素は「ミステリー」
SFとしての壮大な謎だけでなく、
古きよき「犯人はこの中にいるッッ」的な謎も用意されています

恐らくこの作品が一番評価されてるのはこの「謎要素」でしょう
話の展開が王道的に面白く、とてもワクワクさせられるので、人気が出るのも無理はありません

この辺の話はあまり語るのは無粋です
これから読む人も、アニメ見る人もネタバレに厳重注意しましょう


5巻でまとまる美しさ

そしてやはり、最初にも言いましたけど「5巻でキッチリ完結」というところに
個人的にとても惹かれます
謎や複線も全て回収したうえで見事に完結している潔さ
コンパクトすぎず、長すぎず、単行本5巻分というのが、ちょうどいい

正直、面白いと評判の漫画があっても
単行本30巻以上出てて、まだ続いているよとか言われると
やっぱりハードル高いですよね
そういうこと結構多いです
そんな悠長に漫画読んでる時間もないでしょう

しかもドラゴンボールが長く続きすぎとか言われてた昔より、
最近のほうがその傾向が強いのはどういうことでしょう
出版会社としては人気作品はいつまでも長く続けたいのはわかるんですが、
保守的すぎると思うことも多いです

逆に5巻ぐらいで終わってる漫画はだいたい悲しい打ち切りの憂き目にあっている漫画も多く…

出版会社、漫画家、読者、それぞれの立場の違いが生むジレンマに
作品がさらされないことなどない、とわかってはいても
完璧にキレイな形でほどよい長さでまとまっている作品が欲しい…と
思ってる人は多いんじゃないでしょうか
(特に忙しい社会人は)
そう思っている人にはうってつけの漫画といえます


いつもの書評としては長くなってしまいましたが、
老若男女問わず薦められることに加えて、
とにかく異例づくしな漫画だと感じたので、細かく書き連ねてみました