震える石 霊験お初捕物控

時代小説書評【震える石 霊験お初捕物控】

『震える石 霊験お初捕物控』宮部みゆき

(1993年 新人物往来社 / 1997年 講談社文庫 / 2014年 講談社文庫)


今までは宮部みゆき作品は短編小説ばかり読んでましたが、今回結構な長編を読んでみました

(後半ちょっとネタバレが入っています)

これは捕物帳ものの作品になります
これまで読んできたものは妖怪や幽霊のしわざと思われる事件でも人間が犯人だったり
不思議な事件があっても結末をぼかしたりする話はあったんですが
これははっきりと霊的なものを扱った話です

霊感があって、人や物にまつわる過去の出来事や訴えようとしていることが心の中のビジョンとして「視える」少女、お初が主人公で、
それを取り巻く兄の岡っ引きなどと、奇妙な事件に挑みます
サイコメトラーお初…と言ってもいいかもしれません

「それだと霊視で犯人がわかっちゃうんじゃないの?」という疑問が沸くと思いますが、
ここがなかなか上手いところで、
一筋縄ではいかない、とても複雑な話になってますね
その分長くて、話がなかなか見えてこず、
途中で中だるみすることもあるんですが、後半はかなり盛り上がりをみせます
そこはさすがの宮部みゆきで、文字なのに映像を見るような臨場感です


個人的に気に入っているのが、主人公達と一緒に謎解きに加わる「古沢右京之介」という
奉行所の与力の息子のヒョロメガネですね
最初はえらく頼りないんですけど、だんだん好奇心旺盛で
頭がメチャメチャ切れるというのがわかってくる
現実の謎解きはだいたいこの青年が担当して、お初の霊視をサポートしてくれます

逆に言うとそれ以外のキャラクターが弱い感じがします
主人公のお初も活発な江戸娘なんですけど、全体的にシリアスな話で、
事件に振り回されてばかりなのでもうちょっと年相応の娘っ子感が見たかった
この辺は続編「天狗風」も一緒に買ってあり、近いうちに読むので期待という感じですかね
(ラヴもある?)


物語の主軸となる事件には、この物語の舞台の100年前の出来事
「赤穂浪士の討ち入り」と「生類憐みの令」が関わっています
これに共通するのは当時の将軍、徳川綱吉ですが
この小説が書かれた平成初期にはこのイメージで仕方なかったのかもしれませんが
「生類憐みの令=悪法!!」「徳川綱吉=悪!!」
としてストレートに扱っているのが、やっぱり古臭く感じてしまいます

最近は徳川綱吉とその政策はもっと多角的な視点から見直す傾向があるので
確かに「生類憐みの令」は良い面と行き過ぎた面があって、
その行き過ぎた面によって何人も捕まったり、ひどいときには獄門や流罪ということがあったのは事実なので、この物語的に間違ったことではないんですけど
ほんの少し綱吉に手心を加えてあげて下さいなどと思ったりしました
まあ、この法令によってひどい目にあった人々にとってはそんなの知ったこっちゃないんですけど


このお話は海外の映画の「エクソシスト」とか、スティーブンキングの小説みたいなホラー要素とエンタメ性があるので
あんまりカッチリとした時代小説という捉え方をしない方がいいです

それを踏まえて言わせてもらうと
この小説、表紙イラストが藤田新策の旧版と、2014年から出てる村上豊の新装版がありますが
断然、藤田新策のイラストを使うのが正しいです
物語の世界観的にもこれが合ってます

村上豊イラストだと、もう若者は本屋で見つけても手に取らないじゃないですか
まあ現状、時代小説の購買層を考えれば正しいのかもしれませんが、保守的に過ぎる
ラノベ風の表紙の時代小説も増えてきたこのご時世に、この内容の小説でそっちの方向に行く?
これならラノベ風イラストにした方がまだマシですね

そう、ちょうどこんな風に↓

マンガ版まで出てるなんて……(これ少女漫画かな?)
これはこれでキラッキラ方向に振り切ってますね