湖畔荘 ケイト・モートン

ミステリー小説書評【湖畔荘(上・下)】ケイト・モートン

最近は小説を読むこと自体が少なく
読むとしても短編を好んで読んでいたので
本当に久しぶりにここまでの長編小説を読みました

ケイト・モートン作「湖畔荘」です


あらすじ

1933年の夏、イギリスのコーンウォール地方

湖畔荘とも呼ばれるエダヴィン家の屋敷「ローアンネス」で催されていた
ミッドサマーフェスティバルの最中
この家の赤ん坊セオドアが姿を消した

警察の捜索にもかかわらず、結局赤ん坊は見つからず、
70年の月日が流れる

2003年、ロンドン警視庁の女性刑事セイディは
ある不祥事から停職処分を受け
コーンウォールにいる祖父の家で謹慎の日々を送っていた

ある日、日課のランニングの途上、偶然にその湖畔荘を発見

現在は廃墟となった湖畔荘にかつて赤ん坊が失踪した未解決事件があることを知ったセイディは
何かに導かれるように、その事件の解明に乗り出した…


物語は過去と現在の出来事を、断片的に語る形式で進められます
なので時代も立場も違う多くの人間の視点から語られるため、
主人公が複数人いる群像劇という感じでもあります

「赤ん坊の失踪」と一言でいえば単純ですが、
この事件よりも過去の数年間、この事件より後の70年
世代を超えた根深い因縁
二度の世界大戦……

そうした歴史の闇をゆっくり深く掘り下げ、
事件の真実にたどり着きます

とても壮大な物語です


ですが、冒頭で述べたように、この手の長編を最近読んでなかったせいか
展開の悠長さになかなか慣れない

この小説は、とにかく情景描写、心理描写が細かい
近年読んだ同じ厚さの日本の文芸小説がライトノベルに見えるぐらい
文字数も多いし行間も狭い

しかも70年も前のほぼ忘れ去られた事件を扱っているので
展開にハリウッド映画やジャンプ漫画のようなスリルとかハラハラドキドキはないです

主人公セイディの立ち位置についてもそうです
自分と関係のない過去の事件をわざわざ解かなければならない必然性が
初めのうちは読者は感じないでしょう

だから読者はこの不思議で重厚な物語にゆっくり、ゆっくり付き合っていくことになります
現場に復帰したいが今はできない、私はこんな片田舎で何をしているんだという、
主人公の悶々とした気分にも付き合うことになります

ブーさんによる写真ACからの写真

そうです、この物語に
読者は「付き合っていく」、というスタンスでいたほうがいいし
長編小説というのはおおむねそういうものでしょう

実際、上巻は「うーむ」「ふむ」と言う感じで
話はなかなか進まない
事件の真相に近づいているのかいないのか、微妙なところです
しかも作者のケイト・モートンは、あえて読者へミスリードを誘ったりして、
不安と陰鬱な真相を予感させます

そう、この物語は主人公セイディの過去も、置かれた現状も
かつて湖畔荘で起きたことも、悲しくやるせないものが大半なのです

しかし下巻の中盤以降からだんだんのめり込んで来る

そして、結末

この結末は、上巻・下巻通してこの壮大な物語につき合ってきた読者へのご褒美というべき素晴らしいものでした

このパズルのピースがカチっと組み合わさった結末の、
最高のカタルシスを味わうための、上巻のもどかしさだったとさえ思えてきます
ここでケイト・モートンが丁寧に練り上げた世界が生きてくるのです
最終的に読んでよかったと思わせるのが作家の力量だし、
ケイト・モートン自身もそういったことを大切にしている作家のようです(訳者あとがきより)

最近は結末がすぐわかる短編小説ばかり読んでましたが、
長編小説は「読破したったぞー!」という満足感が違います

久々に長編を読んで、そんなことを考えたりしました


ちなみに作者のケイト・モートンはオーストラリア生まれの女性作家で
1976年生まれと、比較的若い小説家

作品数は現時点で5作、いずれも長編のミステリー小説です
この湖畔荘は作者の5作目にあたります